『月の裏側で独りマイケル・コリンズが珈琲を飲みながら、ヴァインランドの森の中ではプレーリーが寝袋の中で、旅の途中だったサロがタイタンで友を想い聴いたのはきっとこんな音楽だったに違いない。それは孤独を越えて響く雨の調べ。』 高田漣
長年様々なアーティストのライブや作品に参加してきたペダルスティール奏者 田村玄一(Little Tempo、 Lonesome Strings、BM’s、ex.KIRINJI) とベーシスト千ヶ崎学(Lonesome Strings、BM’s、ex.KIRINJI) によ る”シネマティックインストゥルメンタル・デュオ” 玄学二重奏(GENGAKU DUO)。
世界規模のパンデミックの最中、遂にファーストアルバムが完成。2021/7/1デジタルリリース決定!! プレーヤーとしての経験と想像力に裏打ちされ練り上げた楽曲の数々は 貴方の脳裏にまるで一編の映画を見てるかのようなイマジネーションの世界をお届けします。
■ ゲストミュージシャン:楠均(dr) ■ Mix : 内田直之 / 千ヶ崎学
玄学二重奏 – GENGAKU DUO –
1st Album
行雲流水 – KOUUN RYUSUI –
2021.07.01 . OUT
DL&Streaming → https://linkco.re/CY2BxmEC
Situation.Tokyo / NF Recordings : NFDL-0009
玄学二重奏 – GENGAKU DUO – / 『 行雲流水 – KOUUN RYUSUI - Track List
1. Underground(Music: : 田村)
2. 行雲流水(Music:田村/千ヶ崎)
3. The Blues Trail(Music:田村)
4. 手袋を買いに(Music:千ヶ崎/田村/楠)
5. その時を静かに待つ(Music:田村)
6. 未確認歩行物体(Music:田村)
7. 深夜、雨、路地(Music:千ヶ崎)
8. 小さな子と大きな犬(Music :田村)
9. 穀雨(Music:田村/千ヶ崎)
10. 君は灯台、僕はランタン(Music :田村)
■ 玄学二重奏 are
田村玄一 / Gen Tamura : Pedal Steel , E.Guitar , Programming
千ヶ崎学 / Manabu Chigasaki : Contrabass , E.Bass , Trombone
■Guest Musician
楠均 / Hitoshi Kusunoki : Drums , Percussion , Programming
■Mixed by
千ヶ崎学 M4, 9 内田直之 M1,2,3,5,6,7,8,10
■Mixed at
Makisato Studio 、千ヶ崎’s home
■Recording at
Gen’s home , 千ヶ崎’s home , Studio capitan (Engineer:石塚順大)
■Mastered by Masayo Takise at M’s disk mastering
■Cover Art & Logo Typography Design : 大島依提亜 / Idea Oshima
■Artist Photograph & Cover Art Photograph :栗原論/ Osamu Kurihara
■Label Producer : 柴田やすし / Yasushi shibata (Situation.Tokyo / NF Recordings)
玄学二重奏「行雲流水」に寄せて by ペダルスティール 田村玄一
玄学二重奏、このちょっと堅い名はもちろん中国の哲学思考の事ではなく、田村玄一の玄と千ヶ崎学の学を”弦楽”にかけた駄洒落な発想で決めたものです。 当初は軽いスタンスでゆるいライブを無責任に楽しむためのデュオでしたので名前はあくまで形式的に過ぎませんでした。 千ヶ崎の地元にあった小さなお店で僕らのキャリアはスタートしたのですが、シネカフェ・ソトというそのお店には立派な映写機があり定期的に映画の上映もしており優しいマスターとも仲良くさせてもらってました。オリジナル曲を書く事もなく洋楽や映画音楽のカバー、ゲーム音楽のカバーなど好き勝手にアレンジして好き勝手なライブをしてたので実に楽しかった、無論楽しさだけでなく演者としての意識は高く持つという心構えではありました、クオリティはさておいて…。
他の活動の合間でしかブッキングできない余暇デュオでしたので年に1度か2度ほどのペースでしかライブはできませんでしたがいつしか友人ミュージシャンを巻き込みながら楽しさの追求は膨らんでいきます。近距離でペダルスティールを観る珍しさもあってか小さい店ながら集客は良かったのです。
そうなると調子に乗って音源を作ろうかという話も湧いてきます。じゃひとまず録ってみようかと計画を立てレパートリーのカバー曲や初めて書き下ろした曲をアレンジし録音に挑みますがなんだか楽しくならない…。思えばこの頃がきちんと自分達の音楽に向き合うかどうかの分かれ道だったのかもしれません。録音が中断してからは仕事に追われつつもどうしたものか悩み考えてましたが明確な答えは出ず終い。
時は過ぎ、憎きウイルスが世界を席巻する事態に我々ミュージシャンの仕事は激減。激減というより消滅、自粛を余儀なくされます。
誰もが強くならなければいけない状況に僕らもやる気を絞り出しともかくシンプルなやり方で家に居ながら頓挫したレコーディングを再開させようという事になりました。
今度は楽しいだけじゃ済みません、無責任でもいられません。アルバム収録予定だった曲を一掃し、ミュージシャンは僕ら2人+ドラムだけの編成で全曲オリジナルアルバムを目指す曲作りが始まりました。私といえばベッドにギターを置いて思いついた曲の断片をノートにメモしたりメロディをLogicに入力したりボイスメモに録ったり、これまで多くの断片を取り逃してきたのでとにかく1片も逃さないようにと努めてました、出来た曲から順次ペダルやギターを録っては千ヶ崎とデータのやりとりをし更に曲作りといった日々が長く続きます。スタジオなら数分で済むディレクションに数日かかったりします。それでも曲を作り家でペダルを録るのが楽しかった、
目標が具体的になると作業もはかどっていつの間にか全曲オリジナルの目処が立っていました。
こうして無事完成に漕ぎ着けたこの作品、とりあえず今は互いを労いホッとしているところですが、たくさんの人に聴いて欲しい…本当に。どーんと打ち上げ出来ないのが残念。
玄学二重奏「行雲流水」に寄せて by ベース千ヶ崎学
玄学二重奏は東京十条の小さなカフェから始まりました。
そこは映画を35ミリフィルムで上映できるいまどき一風変わったカフェで駅前再開発などいくつかの事情で2019年に閉店するまでおよそ10年間、その細い階段を降りたところにひっそりと広がる不思議な空間で沢山の映画が上映され、沢山のアーティストがライブをしました。
開店してまだ間もない時期にひょんなことから店主と親しくなったぼく(千ヶ崎)は、その頃丁度今まで経験していないアンサンブル、活動のありようを模索していたので好きなアーティストにどんどん声をかけていろいろな形態でライブを始めました。その中のひとつが、田村玄一さんとの玄学二重奏です。
ふたりだけでやったり、ゲストを入れたり、映像に合わせて演奏したり、いろいろな形でのんびり活動してきました。そんな感じでスタートしたプロジェクトだったので、作品を作るような意気込みは最初からあったわけではありません。
ライブを何度か重ねるうちにレパートリーやオリジナルも増えてきていましたが、そのうち録りたいねと言いながらなかなか録らないという軽い調子が何年か続きました。コロナ禍前にいちど録音のための作業を始めたもののそれも何とは無しに中断。いま思えば、デュオという形態にとらわれすぎていたのかもしれません。しかし、やはり中断すると逆になんとしても作りたくなるのが人情、それはコロナ禍に入ってさらに加速し、ようやく昨年の春に二曲を配信リリースしました。
その後も緊急事態宣言、自粛が続く中だったので(今もですが)、ほとんどの録音作業をメールとデータのやりとりを用いて、それぞれの自宅で進めながら感染が少し落ち着いたタイミングで楠さんのドラムを一気に録りました。なのであの頃のライブで演奏していた曲はおそらく一曲も入っていません。ドラムも沢山入っているし、エレキベースや打ち込みも入っています。
当初ペダルスティール奏者とコントラバス奏者のデュオとして始まったのですが、気が付けばいつの間にか「玄学二重奏」というデュオ形式のバンドになっていたのかもしれません。
【玄学二重奏による『行雲流水』全曲解説】
1、「Underground」
(田村)生まれ育った神田を通る地下鉄銀座線に想いを巡らせた時に浮かんだ曲。デモには電車の走行音を入れてましたがやめました。サビからの展開は比較的あっさり出来たような記憶。ギターで曲作りする際にペダルスティールへの差し替えを意識するようになったのもこの曲から。楠氏の抑えたドラムが効いてます。
作品番号#16
(千ヶ崎) この曲を録っていた頃はまだ録音開始して間もない頃だったので、コントラバスを自宅でどう録るかまだ試行錯誤中でした。どんなマイクを使うか、部屋の扉を開けるのかなど細かいことで響きが変わってくるのです。玄さんペダルスティールの表現力の豊かさが堪能できる曲だと思います。
2、「行雲流水」
(田村) 変則チューニングのギターを弾いていた時のリフを発展させたものです。ベースのメロは紆余曲折あり最終的にエレキギターとエレキベースという僕らにしては変則的な組み合わせになったけどとても気に入ってます。ちょっと不思議なサビは千ヶ崎が送ってきたアドリブが元になりました。
流されるのは嫌いじゃないしむしろ積極的に流れに飛び込む、そこには思わぬ発見が待っている、流されていても遠回りであっても自分の行くべきところには必ずたどり着けるはず、と思ってます。タイトルを探している時に偶然そんな自分の生き様を表すような四文字熟語を見つけてタイトルにしました。作品番号#2
(千ヶ崎) 玄さんが書いてくれたベースのメロディをコントラバスで弾いたり、エレキベースで弾いたり、サイレントベースでやってみたり、いろいろ試した末に、この形に落ち着きました。展開部分のメロディは特に少々難解で、ふたつのパートに分解して2本のエレキベースで弾いています。静かだけど中身のぎゅっと詰まったトラックです。
3、「The Blues Trail」
(田村)アルバムを通してこれまで培ってきた自分のペダルスティール色をバランス良く出す事が大事でしたのでこのような6/8シャッフルは必須科目です。初期のコンセプトで続けていたらもっと豪華な編成になっていたでしょうが潔い3ピースが正解でした。ペダルを志す人にはテクより発想、もっと自由にやるべし…そんな気持ちもこのアルバムで伝えたいところ。作品番号#9
(千ヶ崎)録音が進むにつれて、他にどんな曲があったらいいかね、なんて軽いやりとりがありました。丁度ビル・フリゼールなんかを連日聴いていたせいか、軽い調子でペダルが活躍できるようなブルース曲あったらよくない?と言ったら玄さんからあっという間に送られてきました。ブルースの解釈って幅があって深いものだけど、やはり玄さんはブルースを熟知してる!
4、「手袋を買いに」
(田村)千ヶ崎のAパートデモに私がコードを貼り付けてBパートを付け加えた共作。デモを聴いた千ヶ崎は「素敵です」と言ってくれて玄学初のコラボ作が誕生。打楽器も欲しいねという事で楠氏に好きにやってと丸投げしてみたら予想を上回る数のトラックが送られてきて嬉しかった。この曲を面白がってくれた証拠だもの。
(千ヶ崎)昨年の先行配信時に作った曲で、先にできた曲が少し重い曲だったので、もう一曲は楽しげがいいなぁと思いながら書いたメロディを玄さんが展開してくれました。玄さんのペダルスティールはとりわけ沢山の音楽的な顔を持っていますが、そのうちのひとつ、ハワイアンの匂いもほんのりあって素敵です。生ドラムを録れる社会状況ではなかったので、楠さんに、データのやりとりで好きなようにリズムトラックを入れてもらうようお願いしました。楠さんならではと言ってもいい、曲の世界を面白く広げてくれています。この曲はミックスも僕がやっていますが、トラック数が多くてなかなかやり甲斐がありました。
5、「その時を静かに待つ」
(田村)仮タイトルは「ジム」でしたが「さて…」にすればよかった。
その時とはどの時なのかは想像にお任せします。さて…私が静かに待っているのは…
オーケストラ音源を探っていたら偶然出てきたヒット音を迷わず入れました。作品番号#26
(千ヶ崎)この曲を聴いていると、ぼくには、ドアが何処にも見当たらない壁も床も天井も全てが真っ白い部屋の真ん中に置いてある木製の椅子に目をつぶって座っている男が思い浮かびます。みなさんはどんな映像が浮かびますか?
6、「未確認歩行物体」
(田村)新しいパソコンの新しいLogicに慣れてきてついに波形をひっくり返すという荒技を覚えた記念の曲。得体の知れない何かが街中をずんずん歩いているが傍観するしか術がない、という設定だけで得体の知れない曲になったと思います。アルバム中ペダルのトラックが最も多くそのほとんどをひっくり返しました。ミックスのコンセプトもずばり「変態」です。作品番号#22
(千ヶ崎)前の曲から繋がっているようにも感じます。エフェクティブなペダルスティールは玄さんの持ち味のひとつです。ちなみにこれはサイレントベースで弾いていて、構造はコントラバスに近いのですが、完全にエレキ楽器なので、いろいろと面白いエフェクト処理ができます。
7、「深夜、雨、路地」
(田村)制作の土壇場で届いた千ヶ崎の滑り込み作品。本来はこういうグルービーなベースが持ち味なのに静かめ遅めな曲が多くて彼に申し訳ないと思いました。こういうものにペダルで付き合うのは好きです。
(千ヶ崎)制作も佳境のころ、アルバムの音楽的な幅を広げるような曲がもう一曲くらい欲しいと感じて、インタールードのつもりで書いた曲です。楠さんのドラムがファンキーでヒップ。ライブではフェードアウトの後、きっともう10分くらい続くはずです!
8、「小さな子と大きな犬」
(田村)これも変則な編成。大きな犬を連れた小さな子が逆に連れられているかのような長閑で楽しいシチュエーションを表現してもらおうと千ヶ崎のトロンボーンを当て込んで書いてしまいました…自称味系さんに今後は余計な苦労をさせたくないのでこれはレアトラックになるでしょう。そして楠氏の叩くシンプルな8ビートは相変わらず絶妙です。作品番号#18
(千ヶ崎)こんなに沢山トロンボーンを吹いたのは久しぶりです。腕前は聞いて知るべし、ですが、拙い感じが曲のテーマと合ってるはず!と思うようにしています。素敵なメロディなので、いつかコントラバスでも弾いてみたいと思っています。かちゃかちゃこちょこちょ遊んでいる楠さんの音に耳を澄ませてみてください。とても楽しいです。
9、「穀雨」
(田村)初期のレコーディングで用意した曲をコントラバスとの連携や構成を見直して配信用に録り直しました。後半のアルコが絶品です。曲のタイトルにはいつも悩まされますが期限が近づいても決められず千ヶ崎にパスをだしたらいいボールが帰ってきたので採用しました。
作品番号#3
(千ヶ崎)いちばん初めに完成した曲という意味では、この曲が玄学二重奏の音楽的方向性を決めたような気がします。本当にふたりだけのふたつの楽器の演奏です。ペダルスティールという楽器の奥深さが存分に伝わってきます。この曲も僕がミックスしたのですが、非常に気合いが入ったのを覚えています。
10、「君は灯台、僕はランタン」
(田村)僕の灯は周りしか照らせないし君の灯は遠くを照らす事しかできない、誰かの役には立ってるけど時には逆の目線に立たなくちゃね、と思います。この曲だけ千ヶ崎のニューコントラバスの太い音が聴けますよ。作品番号#21
(千ヶ崎)いちど録り終えたにもかかわらず、新たに手に入れた古いコントラバスでどうしても弾き直したくて、結局いちばん最後に完成した曲だったと記憶しています。この曲もペダルスティールとコントラバスだけです。デュオ編成でしかもアコースティック楽器となると、もう音色が全てと言っても過言ではないくらい重要になりますが、ウッチーさんの生々しいミックスはそれを後押ししてくれる素晴らしいものでした。
でもいま完成したばかりの音を聴いていると思い浮かぶのは、ふたりだけの合奏でスタートした十条のカフェです。黒塗りの壁や妙に立派なバーカウンター、ライブの日ぎゅうぎゅうに並べた小さな椅子、そこに座って聴いてくれているお客さんたちの顔、頭の中には鮮明に現れます。
そこはカフェソトといいます。店主のおじさんがなんで「ソト」って名付けてんだろうって今もたまに考えます。地下なのにソト。階段を降りると正面の窓ガラスには籠に入った鳥の絵がありました。覚えてる?そんな場所から生まれたふたりの音楽、是非架空のサウンドトラックのように 聴いていただけたら嬉しいです。
玄学二重奏 プロフィール
KIRINJI(キリンジ)、青山陽一、ロンサムストリングスなど何かと活動を共にしてきた田村玄一(ペダルスティール)と千ヶ崎学(コントラバス)によるシネマティックインストゥルメンタル・デュオ。
2013年に活動をスタート。初のライブでユニット名を互いの名前から1文字ずつ取った「玄学二重奏」とした。以来「構えず、ユルく演る」をモットーに年1~2回のライブを続けてきたが自粛をきっかけに改めてデュオの在り方を再検討し楽曲の制作に重点を置きながら現在に至る。
相互の楽器の特性を生かし吟味されたハーモニーの二重奏は世界的にも唯一無二な音世界を体感させてくれるだろう。
■ 田村玄一:ペダルスティール、ワイゼンボーン, ギター / 趣味:料理、カヌー
■ 千ヶ崎学:コントラバス / 趣味:散歩、猫を愛でる
■ 玄学二重奏 Twitter @gen_gaku_duo