— 今夏、音楽フェス出演を皮切りに6人組(堀込高樹/田村玄一/楠均/千ヶ崎学/コトリンゴ/弓木英梨乃)のバンドとして再始動した「KIRINJI」。今回、12月東京・大阪で開催する初のワンマンライブ「LIVE2013」に向け、結成時の心情から今回の初ライブの話まで、リハーサル直前のメンバーに(楠均はLIVEの為欠席)初インタビューを敢行。
新<KIRINJI >としての意気込みを堀込高樹を中心に語ってくれた。—
※このインタビュー記事はディスクガレージ会報誌「DI:GA」掲載内容と連動しています。short verは12/1発行DI:GAにも掲載予定。 http://www.diskgarage.com
この夏、6人編成となって新たな活動をスタートさせたKIRINJI。いくつかのイベントに出演して、その片鱗は覗かせたものの、果たして新しいキリンジ・サウンドはどんなものになっていくのだろうか?
「ぼんやりした言い方になっちゃいますけど、カジュアルなものにしたいんです。あまり洗練され過ぎていないし、逆にルーツ・ミュージックっぽい音楽もやってるけどあまり泥臭くなり過ぎないという。あるいは、いろんな音楽の要素が入っているんだけれど、いい案配のところに着地しているというか。例えば田村さんがペダルスティールやバンジョーを弾きますよね。そこに、コロッコロッ転がるニューオリンズ・スタイルのピアノが得意な人が入ってきたら、出来上がりの音楽はアメリカ南部っぽいいい雰囲気にはなるけれども、でもそこで音楽が終わってしまうとも思うんです。ペダルスティールやバンジョーが醸し出すアーシーな感じに対して、ピアノはどういうアプローチがいいのか?と考えたときに、コトリさんみたいにきれいなピアノを弾く人が入ってくると、泥臭いだけではない音楽が生まれると思うんです」(堀込高樹)
これから生まれてくる音楽を簡潔に説明しようとすれば、キーワードは「折衷」という言葉であるのかもしれない。
「千ヶ崎くんや田村さん、楠さんといった、いままでやってきてもらった人たちというのは、音楽的な背景が比較的似ているというか、音楽的な話をする場合にツーカーなところがあると思うんです。でも、弓木さんやコトリちゃんは音楽的な背景が違う。だから、そういうメンバーがいっしょにやると、例えばルーツ・ミュージックへの指向はあるけれども、ただのルーツ・ミュージックではないし、エレクトロっぽい曲をやってもただのエレクトロではないというふうに、いい感じに折衷された音楽がやれるといいかなぁっていう。別々のカルチャーがひとつの音楽の中にあるというか、ひとつのカラーに統一しようとし過ぎないということですかね。例えばソウルっぽい曲に対して、ソウルっぽいプレイをしようとか、そういうふうにジャンルで考えないで、メンバーそれぞれが背負っている自分のカルチャーを自然に出してくれればいい、という感じかなあと思っています」(堀込)
それは、言い換えれば、キリンジにおけるバンド性の高まり、というふうにも言えるかもしれない。
「いろいろ混ざってるのは、面白いですよね。“これはフュージョン、これはAOR”というようなことではなくて、そのメンバーでできる演奏で聴かせるっていう。バンドって、そういうものじゃないですか。曲ごとに好きなミュージシャンをチョイスできるわけではないから。良い意味で、楽しく諦めるというか。そのメンバーでできることを持ち寄って、いい感じに仕上がる落としどころをみんなで目指すというのがバンドの楽しさですよね。そういう部分は、前よりも絶対必要になってくるというか、増えてくるんだろうなとは思います。固定メンバーでやるというのは、きっとそういうことだと思うので」(千ヶ崎学)
だからこそ、個々のメンバーの個性に対する注目度も高まるが、ベテランはベテランらしく飄々と、若手はあくまでも初々しく、しかし誰もがキリンジ・サウンドを担う歓びを感じている。
「加入の誘いを最初に聞いたときは“マジですか!?”という気持ちもありましたけど、でも想定内ではありました(笑)。スタンス的にも、現状ではあまり変わっていなくて、これから徐々に変わっていくんだろうなとは思いつつ、でも僕はサポートの人間だからバックで何かしてるのが元々好きなので、そういうスタンスはずっと守ってきたし、これからも高樹くんのバンドだという意識がありますから、高樹くんが船頭さんになってくれるということだろうなと思っていますから、彼と同じ方向を見て漕いでいこう、みたいなことですね」(田村玄一)
「お話をいただいたときから、“なんで私なんだろうな?”という気持ちがずっとあったんですけど、実際に演奏するとなったときに、CDの音楽をそのまま再現するようなことを求められているわけじゃないから、加入できたのかなと思って。みなさんに比べたら知識もあまりないんですけど、そのなかでも自分の感性というか、自分がいいなと思うものをやりたいなって。元の音源にこだわるよりも、私なりの何か新しいものを求められているのかな、だから呼んでもらえたのかなと思うんです」(弓木英梨乃)
「私はバンドをやったことがなかったんですね。セッションはやったことがあるんですけど、それにしてもジャズというのは基本的に“わたし!わたし!”というプレイをしないと駄目な世界だったりするし、自分の音楽だと自分ひとりとかベースとドラムだけという編成が多いのでわりとありとあらゆる音を弾いてしまうクセがあるんです。そういう私がバンドに入って、ピアノを弾き過ぎてしまうとアンサンブル的にワーッとなってしまったことがリハでもあって、そのあたりの加減を考えるのが私のスタート地点というか。他の人の音をもっと聴く耳を自分のなかで育てたいと思っているところです。それと、実際に譜面をもらって見たときに、なかなか覚えられないコード進行で、だからすごく考えて作ってるんだろうなと思って。素直に行くのかと思ったら、ちょっと寄り道したりして、そこにキリンジの特徴みたいなことがあるのかなと思ったりしています」(コトリンゴ)
そこで、ライブだ。どんなスポーツにも「100回の練習より1回の試合」ということが言われるけれど、バンドの音を固めるのも、100回のリハより1回の本番。しかも、一緒にステージに立てば、音だけでなく、バンド内のコミュニケーションも一気に深まって、それぞれの役割が明確になっていく。
「ライブはまだ手探りな感じですけど、面白さは2回目で見出しました。やっぱり女子が2人いるということが面白いですよね(笑)。その2回目が弓木さんが入った最初のライブだったんですけど、弓木さんはかわいらしいワンピースをお召しになっていて、それでものすごいギターを弾いてるわけですよ。そのギャップがすごい面白かったですね」(田村)
「演奏という部分ではみなさんに付いていくのに必死なんですけど、自分の強みというか、アピールできるところをアピールするのがいいと思うんです。だから、最年長の玄さんとは年もすごく離れているし、ライブではその若さをアピールしたほうがいいのかなっていう(笑)。いま自分にできることをやってるのみです」(弓木)
「私もできることをやるしかないので、高樹さんが作られた音楽をみんなでどれだけ素敵な形にしていけるかということだけを考えています」(コトリンゴ)
12月に開催される初めてのワンマンでは、新曲もしっかり用意。新しい方向性を実感できるステージになりそうだ。
「自分でもまだどうなるかよくわからないんですけど(笑)、とりあえず新曲をけっこう用意しています。それに加えて、前のキリンジだったら曲が多かったからはずしていたようなちょっとユニークな曲もやってみようかなとか。それからソロの曲もやります。だから、これまでのキリンジを見ていた人も楽しめる内容ではあると思うんですけど、キリンジ知らないな、聴いたことないなという人が来ても“面白い音楽をやってるな”とか“面白いバンドになってるな”というふうに思ってもらえるようなライブにしたいと思っているので、がんばって演奏したいと思います」(堀込)
●インタビュー/兼田達矢